怪しい回教徒の馬(マー)集団
(2009年6月3日)


  北京には土器を地方から持ってきて売っている集団がいる。その集団のメンバーの姓はほとんどが、馬(マー)と言うのである。馬(マー)さん達は殆どがイスラム教徒で、“マー”と言うのは本来マホメットという意味なのかもしれない。更に言えば馬(マー)さん達は回族と言う少数民族の回教徒である。北京に出てきているメンバーは何人ぐらいるだろうか。ちゃんと骨董屋の店を構えている馬(マー)さんは、北京では30軒ぐらはあるかもしれない 露天で商売をしている連中は、出入りが激しいが100人は居るだろうか。この数字はあんまり確信は持てないけれど。

  北京には内蒙古から紅山文化の土器を持ってきて売っている人もいるが、この人達は回教ではない。馬(マー)という人達は甘粛省の臨夏市か、その付近から出てきている人達ある。そう言っても分からないかもしれないが、臨夏市は蘭州とういう大都会の近くにある。蘭州といっても分からなければ、西安からシルクロードに向って出発し、最初に出会う大都会が蘭州である。蘭州市の場末の方にも丸い白い帽子を被った回教徒が沢山いる。その蘭州市から、西南の方にいくと臨夏回族自治州という地区があって、そこの住人はほとんどが馬(マー)という姓の回族という少数民族なのである。因みに臨夏回族自治州からもっと奥に行くとチベット族自治州があるが、それくらい田舎であるということである。


この人達は、北京に来ている馬さんではなく、甘粛省臨夏市付近の馬さん。
回教徒であるので男は白い帽子、女性はベールを被っている。




  馬さんのグループが、北京に持ち込んで売っているのは土器だけではなく、斉家文化(4000年前)の玉器(ぎょくき)もある。もう一つは、恐竜の歯というのを売っている。この恐竜の歯というのは嘘であって、私が調べたところ臨夏回族自治州の和政というところから出る「シャベル象の歯」である。シャベル象とは口先がシャベル(スコップ)のようになっている古代象である。この偽の恐竜の歯は珍しいので孫のお土産に買ってきたことがある。


回族の馬さん達は恐竜の歯と言って売っているが、本当は古代象の歯である。
甘粛省蘭州の蘭州博物館で写したもの




  臨夏回族自治州やその周辺の甘粛省から出土する土器は、「甘粛彩陶」と言い、日本ではアンダーソン土器といわれるものである。そして斉家文化の玉器(ぎょくき)も恐竜の歯(嘘!)も全て地下からの出土品である。

  日本と中国の土器や玉器の出土状況は全く違う。特に甘粛省の土器、玉器は大量に出土する。日本より文化の層がずっと厚いというか、土器は6千年頃のものから、玉器でいえば4000年前ぐらいのものがたくさん出土する。日本の土器が骨董屋で売買されることはあまりないと思う。もし日本で土器が発掘されたら、普通それは研究者とか博物館に納まるはずである。しかし中国は違う。中国の甘粛省から出土する土器や玉器の出土品は研究に回されるより、回教徒のマーさん達を通じて、殆どが収集家の手に渡ってしまうのである。


中国最大の骨董市、潘家園骨董市場で売られている甘粛彩陶。
画面の下の方には恐竜の歯と言われる化石がある。
画面下の左右にある石器は、斉家文化の玉器。右下のものは「璧」と言われる形のもの。



斉家文化の玉器、そのうちでも武器から変化した刃がある玉器


  甘粛省の土器や玉器は大量に出土するから保護する必要が無いとうこともあるかもしれないが、地方政府には新石器時代の文物を保護しようという気持ちは全く無いらしい。その地方政府の方針(?)は、それを収集するが側からしてみれば有難いことなのであるが、冷静に考えてみるならばやはり問題がある。

  特に斉家文化の玉器(ぎょくき)などは、これだけの出土品がありながら本格的な考古学の研究がなおざりにされている。その結果、考古学者も知らないような素晴らしい斉家文化の玉器(ぎょくき)が骨董屋に飾られていたりする。その素晴らしい物の存在を考古学は知らないらしい。特に玉器(ぎょくき)にトルコ石で象嵌された物、更に青銅器にトルコ石で象嵌されたものは、考古学的にも貴重なものだと考えられるのだが、いろいろ調べてみたが、考古学者によって研究はされていないのは確からしい。


これは斉家文化の青銅器にトルコ石で象嵌をした首飾り。
上の両端に紐を通す穴があったのだが欠落している。
甘粛省の彩陶、玉器の専門骨董屋で撮影させてもらった。
欲しかったけれどあまりにも高くて買えなかった。このように考古学的にも
価値がある出土品が、考古学者に研究もされず収集家の手に渡ってしまう。




  因みに私が中国の会社を退職したとき貰ったものは、青銅器にトルコ石で象嵌したもので、甘粛省の斉家文化のものである。それは会社で回族のマーさんの店から買ってきてもらった物なのだが、当然、これらのものを売買する回族のマーさんは、それが甘粛省から出土する斉家文化のものであることを知っている。しかし考古学者はそのことを知らない。考古学者も知らないことならば、回族のマーさんの集団が「これは斉家文化のものである」と口裏を合わせて捏造した偽物だろうか。そんなことはない。回族のマーさんの地元から出土するものなので、学者が知らないことを知っているのである。

  斉家文化の青銅器といえば、中国で初めて青銅器を作り出した文化なのである。そんなものが骨董市場で売られていてもいいものかと思うのだが、そしてその斉家文化の青銅器が私にでも手に入ったのは、回族のマーさんのおかげではあるのだが。


中国の会社から退職時にプレゼントして貰った斉家文化の
青銅器にトルコ石で象嵌をした鹿。額装にして飾って大切にしている。

斉家文化の青銅器のトルコ石象嵌品、これは相当に考古学的価値があると思うのだが。



  私は何人もの馬(マー)さんと知り合になった。知り合いは20人はいたかもしれない。何人もの馬さんから土器などを買ったからである。中には友達になった馬さんもいる。友達になったと言っても、友達になった事情はこうである。一度物を買ったりすると、相手が「友達じゃないか、安くしておくよ」とか、「友達じゃないか、騙さないよ」なんて言うようになるのである。友達といってもその程度の友達なのであるが、その友達の馬さんの方がかえって怪しい。怪しい馬さんに何回も騙されて偽物を買わされた。その偽物はどうしたかというと、怪しいと気が付いて突き返した。もっとも返す際に別の高いものを買わされたのが本当のところである。どんなものが偽物かはかなり勉強したので、今所有している物は偽物ではないと思う。怪しい回族の馬さんのお陰でずいぶん勉強させてもらった。


これは「甘粛彩陶」ではなく、仰韶(ヤンシャオ文化の半坡類型の土器であるが、
偽モノである。土器本体は本物である。そこに半坡類型の典型的な文様を
これでもかと言う具合に書き加えてある。なかなか手の込んだ偽モノである

絵は後から書いたものなので焼き付けられていない



  怪しい物を売っている馬さんは、骨董市場の露地に品物を並べている馬さんに多い。ちゃんと店を構えている馬さんの店の品物は偽物は少ないと思う。偽物どころか、素晴らしく彩色された土器がずらりと並んでいる。彩色されている土器だから中国語では「彩陶」と言い、甘粛省で出土するので「甘粛彩陶」とも言うのであるが、博物館よりも素晴らしいものがズラッと並べられていたりする。

  出土するといっても、正常な出土ではないはずである。ある土器の胴の部分に小さい孔が空いてるものがある。それは地表から細い鉄棒を突き刺し土器の在りかを探った跡なのである。甘粛省は黄土高原地帯だから、厚く黄土が堆積しているから石などはなく、鉄棒が何かに当たったら、土器である可能性が高いのである。これを掘り出すのは北京に来ている馬さんではなく、別の地元の人である。こうして土器を掘り出すのは回教徒ばかりではなく、回族がいる地帯よりもっと広範な場所から掘り出される。それを回教徒の馬さんが仕入れて北京で売っているのである。

  こんな風にして売っている土器や玉器は違法なものなのかどうか。日本の法律によれば違法であろう。しかし回教徒の馬さん達が売っている所は中国であって日本ではない。骨董市で白昼堂々と売られているものである。お上のお咎めは何も無いのである。だから多分違法ではないと思われる。

  何人かの馬さんの家には、何回か行ったことがある。土器や玉器の保管場所兼住宅になっていて、そこにある土器などを見に行ったのである。一部屋だけの部屋の壁際の棚に土器が並べてあって、ほかにはベットだけがある土間の部屋であった。初めてそこに行ったときは、怪しい回族さんの、盗掘品の秘密のアジトを覗くようで少し緊張した。


秘密のアジトではないのだけれど、ある回族の馬さんの倉庫兼寝室。
トイレも、台所もない土間の部屋だった。売り物はこのように沢山ある。盗掘品(?)

rも


  実は私が住んでいた団地の中には貸間にする地下室があり、そこに夫婦と子供とで住んでいる馬さんが居た。迷路のような地下室の一部屋で、狭い土間の部屋にベットが二つだけ有り、トイレも台所も無い部屋だった。北京には地方から出稼ぎに来る人が泊まる施設として、狭くて湿った怪しい感じのする地下室があっちこっちにあるのである。この夫婦の馬さんが持ってくるのは玉器だったけれど、私はなかなか良いものをこの馬さんから買ったのである。

  この馬さん夫婦はオリンピック期間中、故郷の甘粛省臨夏市に追い返されていた。私にとこの夫婦は、なかなか良い物を持ってきてくれたので、この夫婦を怪しいとは思っていないけれど、北京市当局から見れば、この夫婦も信用できない怪しい少数民族ということになるのだろう。


北京にいる回教徒で、甘粛省から土器などを売りに来ている馬さんは、どんな人なのか?
実は親しくなって子供の写真などを撮って上げたりしたのだが、その写真は殆ど消してしまった。
残念である。この写真は北京の回教寺院のラマダーン明けのお祭りの
時に撮った写真で、よく知ってる馬さんが中央あたりに二三人いる。













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